桃の節句

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桃の節句-やさしさに包まれた春の祝い

春の気配が静かに広がる雨水のころ。
大地にやわらかな水の気が満ち、土がほころび、命が目を覚まし始めます。
そんな季節に訪れるのが、「桃の節句」です。

3月3日に行われる桃の節句は、女の子の健やかな成長と幸せを願う大切な行事
その由来は古く、平安時代の「上巳(じょうし)の節句」にさかのぼります。
当時は、紙の人形に自分の穢れや厄をうつして川に流す「流し雛」の風習がありました。
時代とともに、この人形はやがて華やかなひな人形へと形を変え、今に続く「ひな祭り」となったのです。

雛人形に込められた願い

ひな人形は、ただ飾るだけの美しい飾りではありません。
それは、女の子の人生を守り導くお守りのような存在
病気や災いから遠ざけ、笑顔に満ちた人生を歩めるように──
親や祖父母の、深くて静かな祈りがそこには込められています。

お雛様とお内裏様が仲睦まじく並ぶ姿は、良縁を願う象徴でもあり、
桃の節句そのものが「健やかさ」と「幸せ」を優しく抱くような、春のしるしです。

雛人形を飾る時期としまい時

雛人形を飾り始めるのに良いとされているのが、**「雨水(うすい)」の日(2月18日ごろ)**です。
「雨水にひな人形を飾ると良縁に恵まれる」との言い伝えがあり、
この日を目安に準備を始めるご家庭も多く見られます。

一方で、片付ける時期は地域によってさまざまですが、
ひな祭りが終わったらなるべく早めにしまうのが良いとされています。
「片付けが遅れると婚期が遅れる」という言い伝えもありますが、
これは“物を大切にする心”を表す、日本人らしい戒めの言葉ともいわれています。

桃の節句(3月3日)のあとには、啓蟄(けいちつ/3月5〜6日ごろ)という次の節気がめぐってきます。
古くから、日本人は「節句」や「節気」といった季節の節目ごとに、
行事を整え、空間をあらため、新しい季節を迎え入れるしつらえの文化
を大切にしてきました。
ひな人形の片付けも、そうした季節の切り替えの中の営みのひとつと言えるでしょう。

「三月掛け(さんがつがけ)」とは?

雛人形を三月にまたがって長く飾ることを、「三月掛け(さんがつがけ)」と呼ぶことがあります。
これを縁起が悪いと考える方もおり、その背景には語呂合わせがあります。

たとえば「三月掛け(さんがつがけ)」は「始終苦労が身につく(しじゅうくろうがみにつく)」と音が似ていることから、
物事が長引いて苦労が続くというイメージに結びつけられ、
仏事や冠婚葬祭の場面では、縁起を担ぐ意味で避けられることがあるのです。
これは「四十九日」や「三月またぎ」など、他の節目にも見られる考え方です。

ただし、これはあくまでも言い伝えや迷信のひとつ
もともとは「ひな祭りが終わったら、行事の余韻を大切にしつつ、なるべく早めに片付けましょう」という
行事への丁寧な向き合い方を促すものでもあります。

旧暦で節句を祝う地域や、気候に合わせて飾る時期を調整する家庭も多く、
必ずしも「三月掛け」を気にする必要はありません。
それぞれの暮らしに合った形で、季節の節目を楽しむことが大切です。



ひな人形は繊細なつくりのものが多く、湿気に弱いため、片付ける際は天気にも気を配りたいところです。できれば、晴れて乾燥した日を選んで、日中のうちに丁寧にしまうと安心です。
湿気の多い日に片付けると、収納中にカビや傷みの原因になることもあるため、
年に一度の行事が終わった後も、大切なお人形を長く守るための心配りが大切です。

桃の節句の祝いと食べ物

ひな祭りには、女の子の成長を祝いながら、春の味覚を囲みます。

  • ちらし寿司:華やかな色合いで、春の芽吹きを表現した祝い膳。
  • はまぐりのお吸い物:対になって合う貝殻のように、良縁や夫婦円満を象徴します。
  • ひなあられ:色とりどりのあられは、四季や自然の恵みへの感謝の象徴。
  • 白酒(しろざけ)・甘酒:女の子の無病息災と厄除けを願って飲まれる祝いの飲み物。

これらの食卓には、春の優しさと、娘を想う気持ちが丁寧に盛り込まれています。

最近の風潮と、現代のひな祭り

近年では、住宅事情やライフスタイルの変化から、コンパクトなひな人形や木製のアート風雛も人気です。
「親王飾り(お内裏様とお雛様のみ)」や「立ち雛」、「ケース入り」など、暮らしに寄り添った形で楽しむご家庭も増えました。

また、姉妹で一組を共用したり、初節句は祖父母から贈られたお雛様を飾ったり──
それぞれの家庭のかたちで、無理なく受け継がれていくのが現代の雛祭りです。

大人の桃の節句──心をととのえる時間として

桃の節句は、女の子のためだけのお祝いではありません。
春の季節に、女性たちが自分自身を慈しみ、心と暮らしをととのえる節目として、
「大人のひな祭り」を楽しむ方も増えています。

  • 桃の花を一輪、部屋に飾る
  • 甘酒や和菓子で季節を味わう
  • 小さな雛飾りをひとつ、飾ってみる

こうしたささやかな祝いは、心をふわりと軽くし、
年齢を重ねた今だからこそ味わえる静かな幸せを運んできてくれるでしょう。



おわりに
節句──暮らしを整え、心身を慈しむ知恵の時間

節句は、ただの祝い事にとどまらず、
あらためて家族や自分自身の身体を気遣い、生活を見直す節目の時間でもあります。

たとえば、桃の節句に雛人形を飾り、また片づけるという行為は、
日々の慌ただしさから少し距離を置き、暮らしを整え、心身を整える機会でもあるのです。


こうした【習わしの日】を暦に定め、節目ごとに丁寧に暮らしを点検するという日本の生活スタイルは、
昔から代々積み重ねられてきた人々の知恵そのもの。

季節の節目に寄り添いながら、家族の絆を確かめ、日常の豊かさを再確認する。
それが、暮らしを健やかに、美しく育んでいく力となっているのです。


春のやさしい光に包まれて、
家族の願いと季節の恵みを静かに感じる桃の節句。
それは、小さな命に向けた祈りであり、日々の暮らしを愛おしむ時間でもあります。
ひな祭りのやさしい空気は、これからもずっと、変わらず心をあたため続けてくれるでしょう。


【桃の節句】についてもっと知りたい!

五節句をめぐる旅へ

桃の節句だけでなく、年の巡りの中には美しい節句が他にもあります。
それぞれの節句に込められた願いや季節のならわしを、のぞいてみませんか?

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