
厳しい冬を越したさなぎが羽化し、
華麗な蝶へと生まれ変わり、軽やかに舞い飛ぶ頃
野に咲く菜の花が、やさしい黄色で春を染めはじめる頃。
その足もとにいた青虫たちが、冬の静けさをくぐり抜けて、そっとさなぎから目を覚まします。
やがて薄い羽を広げ、陽の光に誘われるように、ひらひらと空へ――
七十二候の「菜虫化蝶(なむし ちょうと なる)」は、そんな美しい変化の瞬間を切り取った言葉です。
「菜虫」とは、菜の花や大根、蕪などの葉につく紋白蝶(もんしろちょう)の幼虫、つまり青虫のこと。
一見すると目立たず、畑の片隅で静かに暮らしていたその小さな命が、時を重ねて、やがて蝶へと姿を変えていくのです。
冬の間、じっと殻の中にこもりながらも、命の営みは静かに進んでいました。
そして春の訪れとともに、蝶となった姿で空へ舞い上がる。
その姿には、目には見えなかった時間と努力が宿っているようにも思えます。
羽ばたきはまだたどたどしく、風に揺られながらも、どこかうれしそうに宙を舞う白い蝶。
春の陽だまりの中で、その姿を見かけたら――
それはきっと、いのちがまた新たに動き出した合図なのかもしれません。
菜の花のあいだを舞う白い蝶の姿は、まるで春の景色と調和する一筆の絵のよう。
私たちの目の前には、気づかぬうちにこんなにも美しい季節の物語が広がっているのです。
静かな変化が、やがてかたちとなって現れる頃。
小さな命が変わる瞬間にそっと心を寄せて、今このときの春を見つめてみませんか。
風に揺れる花、羽音の気配、陽だまりのぬくもり。
そのすべてが、春のやさしい記憶として、心にそっと残りますように。
コメント