
季節の節目にある、祈りのこころ
「節句(せっく)」とは、季節の節目をあらわす言葉です。
古くから日本では、季節の変わり目は体調を崩しやすく、心や暮らしも揺らぎやすい時期と考えられてきました。
そのため、人々は節目の日に身を清め、旬の食を整え、無病息災を祈る習わしを大切にしてきたのです。
節句にまつわる行いは、すべて「邪気を払う」祈りのかたち。
立春の前に行われる節分の豆まきや、冬至のゆず湯も同じように、季節の変わり目に身と心を整えるための風習です。
自然の移ろいに寄り添いながら、自分と家族の健やかさを願うその感覚は、日本人が古来より大切にしてきた暮らしの知恵と言えるでしょう。
習わしとしての節目
節句は、お祝いのためだけの日ではありません。
雛人形を出す時期や、鯉のぼりを揚げる日、七夕の飾りを用意する日──
その一つひとつが、暮らしを整え、日々に静かなリズムを与える「習わしの日」でもあります。
忙しい毎日の中で、「この日は大切に過ごしたい」と心に区切りをつける。
そんな小さな意識の積み重ねが、家族や自分自身を労わる時間へとつながっていきます。
節句は、昔から代々大切に受け継がれてきた、やさしい暮らしの知恵なのです。
五節句というめぐり
今、私たちの暮らしに息づいているのは、「五節句(ごせっく)」と呼ばれる五つの節目。
これは奈良時代に中国から伝わった暦の考え方と、日本古来の自然に寄り添う暮らしが重なり合って生まれました。
古代の人々は、奇数は「陽」の数字とされ、同じ陽が重なる日は気が強すぎて不安定になると考えました。
その揺らぎを鎮め、健やかに季節を越えるために、祈りと行事を結びつけたのが節句の始まりといわれています。
やがて、この考えは稲作や四季とともに生きる日本の暮らしに溶け込み、
「季節の節目に心と体を整える」という形で受け継がれてきました。
それはまさに、日本人が大切にしてきた暮らしの知恵と言えるでしょう。
各節句の意味と風習
🌿 一月七日【人日の節句】
七草の節句/無病息災を願う日
春の若菜に命の力をもらう、年初めの節目。
1月7日は、「七草がゆ」を食べる日。
中国の「人日(じんじつ)」という考えに由来し、日本では古くから「若菜摘み」といって、新年に草花を摘み、春の気を身体に取り入れる風習がありました。
飾り物にはお正月の名残として羽子板や破魔弓を飾り、魔を払い、一年の健康を願う日とされています。
🌸 三月三日【上巳の節句】
桃の節句/女の子の健やかな成長を願う
身を清め、穢れを流すひとがたが、雛人形となって暮らしに息づく。
もともとは、川で身を清め、災いを祓う「上巳の祓い」が起源とされます。
日本では、人の形をした「ひとがた」にけがれを託し、川へ流す風習があり、それが次第に雛人形を飾る風習へと変化していきました。
桃の花には、邪気を払う力があるとされ、雛祭りの日には桃の花を飾ることも多く見られます。
【桃の節句 TOP】

🎏 五月五日【端午の節句】
菖蒲の節句/男の子の健やかな成長を願う
菖蒲と武士の「尚武」を重ね、強く・健やかな成長を祈る。
もとは「月の初めの午の日」という意味を持ちます。
この日には、菖蒲湯に入って邪気を祓い、強い香りで病を遠ざける習慣がありました。
また、「菖蒲(しょうぶ)」は「尚武(しょうぶ/武を重んじる)」にも通じることから、男子の節句として定着。
- 飾り物:五月人形・兜・鯉のぼり
鯉のぼりは、「滝を登った鯉が龍になる」という中国の伝説から、「立身出世」や「たくましく生きる力」の象徴とされます。
🎋 七月七日【七夕の節句】
笹竹の節句/手仕事の上達と願いごとを天に届ける日
星のめぐりに願いをこめて。笹は天への道しるべ。
織姫と彦星が年に一度だけ天の川で会うという、七夕伝説にちなんだ行事。
日本では古来より、機織りや針仕事の上達を願う宮中行事として行われていました。
飾りには、笹竹に短冊を結ぶ風習があり、現代では願い事を書く習慣が広まりました。
笹は、邪気を払う植物とされ、風にそよぐ葉音が清らかな響きとされていたのです。
🌼 九月九日【重陽の節句】
菊の節句/長寿と健康を祈る日
菊の香に包まれて、老いと向き合い、美しく生きることを願う。
古来より、菊は薬草として不老長寿の象徴とされてきました。
重陽(ちょうよう)は「陽の極まる日(9が重なる)」として、気が不安定になるとされ、菊の花や香りで身をととのえる風習が生まれました。
また、「後(のち)の雛」と呼ばれる風習もあり、三月に片付けた雛人形を再び出して飾ることで、人形の傷みを防ぎ、長く大切に使うことが行われていました。
二十四節気とのつながり
節句は、自然の大きな節目と響き合っています。
「二十四節気(にじゅうしせっき)」は、太陽の動きをもとに一年を24の節目に分けた暦で、古代中国で農耕の目安として生まれました。
種まきや収穫など、自然と共に暮らすための知恵として伝わり、立春・夏至・秋分・冬至などもその中に含まれます。
五節句は、この二十四節気の大きな節目と重なる時期に置かれています。
二十四節気が「自然と農のリズム」を整えるための暦だとすれば、
五節句は「人と暮らしのリズム」を整えるための祈りの日。
どちらも自然と共に生きてきた日本人が大切にしてきた、暮らしの知恵と言えるでしょう。
暮らしに息づく節句
節句は決して特別な日だけのものではありません。
人日の朝に七草がゆを味わう。
雛人形を出す時に家の中を整える。
菖蒲の香りに包まれて湯に浸かる。
星空を見上げて短冊に願いを込める。
そうした一つひとつが、自然と自分の距離を測りながら、暮らしに静かな調和をもたらす時間となります。
おわりに
節句を暮らしに取り入れることは、大げさな行事ではなく、
「日々の中で、そっと手を止めるきっかけ」を持つこと。
それは、家族の健やかさを願い、自分自身をいたわり、
自然とともにある暮らしを静かに思い出す、やさしい節目です。
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