第十二候 雷乃発声(かみなり すなわち こえを はっす)


はじめて雷の音が聞こえる頃

春も半ばを迎えるころ、ある日の午後、ふと空が曇り、遠くからかすかに低く響く音。
それは「春雷(しゅんらい)」と呼ばれる、春のはじまりを告げるやさしい雷の声です。

「雷乃発声(かみなり すなわち こえを はっす)」は、春の雷が初めて鳴る頃をあらわす七十二候。
まだ寒さが残る空気のなかに、ほんのひととき現れては消えるその響きは、
どこか控えめで、優しく耳をくすぐるような印象を残します。

雷と聞けば、激しい夏の嵐を思い浮かべるかもしれませんが、
この季節の雷は、一つ、二つと静かに鳴り響いたかと思えば、すっと雲の彼方へと消えていきます。
それはまるで、大地の眠りを揺り起こす目覚ましのように、草木や虫たちに「もう春だよ」と告げているかのようです。

古来より、雷は神の声、あるいは自然の息吹とされてきました。
なかでもこの「春雷」は、田畑の目覚めを知らせる吉兆ともされ、人々はその音に季節の節目を感じ取ってきました。

秋分の初候にあたる「雷乃声収(かみなり すなわち こえ おさむ)」と対になるこの候は、
雷の“始まり”と“終わり”を静かに結ぶ、自然の巡りの節目です。

耳を澄ませて、空の声にふと気づいたとき、
それはもしかすると、季節の扉がまたひとつ開かれた合図なのかもしれません。

春雷は、見るものではなく、聞くもの。
そして聞こえるか聞こえないかの、ほんのわずかな変化に、私たちの感覚がゆっくりとほどけていく季節です。

空の向こうでこだまするその「ひと声」を、
ただ静かに受けとめることで、春という季節が、私たちの中にもそっと根を張っていくのでしょう。

風が変わり、音が変わり、そして空の色までもがゆっくりと移ろいゆくこの頃。
移り変わる空の気配に、そっと心をゆだねてみてはいかがでしょうか。

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