第十三候 玄鳥至(つばめ きたる)


夏鳥のツバメが渡来する頃

空を見上げると、まだ淡い春の青空に、ひらりひらりと舞う細い影。
それは、長い旅を終えて、日本の空へと帰ってきたツバメたちの姿です。

七十二候の「玄鳥至(つばめ きたる)」は、
冬のあいだ暖かい南の島で過ごしていたツバメが、海を越えて再び日本にやってくる季節。
その姿が見られるようになると、春が深まり、やがて本格的な農耕の始まりを告げる合図ともなります。

ツバメは、古くから人々の暮らしのすぐそばに寄り添ってきた鳥です。
軒下に巣をかける様子は春から初夏の風物詩でもあり、
「ツバメが巣をつくる家には福が訪れる」と、縁起のよい兆しとされてきました。

その由来には、ツバメが人の暮らす場所を好み、天敵から雛を守るために、あえて人の近くを選んで巣をかけるという習性があります。
そのため、ツバメがやってくることは、「安心できる場所」「穏やかな暮らし」がそこにある証として、
昔の人々にとって喜ばしい出来事だったのでしょう。

また、ヨーロッパでは、ツバメは「復活と再生」の象徴ともされ、
春の祝祭である復活祭(イースター)の頃に姿を現すことから、
新たな命や希望の訪れを意味する鳥とされてきました。

日本でも、ツバメの飛来は、季節の巡りとともに訪れる自然のリズムの一部として、
私たちの記憶にそっと根づいています。
風の音がやさしく変わり、陽ざしが少しずつ明るくなるこの頃。
空を行き交う小さな影に、ふと気づいたとき、心のどこかがほどけるような感覚が訪れるかもしれません。

季節を超えて海を渡り、また同じ場所へと戻ってくるツバメたち。
その姿には、言葉を持たずとも語りかけてくる、静かで確かなものがあります。人と自然が寄り添いながら生きてきた長い時間のなかで、
春の空に舞うツバメたちは、今も変わらず、やさしい季節の便りを運んできてくれるのです。

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