第十七候 霜止出苗(しも やみて なえ いずる)


霜が降りなくなり、田に苗がすくすくと育ちはじめる頃

やわらかな春の陽が、ようやく土の奥まで届くようになってきたこの頃。七十二候の「霜止出苗(しも やみて なえ いずる)」は、霜が降りることがなくなり、田んぼに苗が植えられ、静かに育ち始める季節を指します。

田畑を覆っていた朝霜も姿を消し、風にはどこか湿り気を帯びたあたたかさが混じり始めます。大地はようやく目覚めを迎え、種がまかれ、苗が根を張り、ぐんと成長してゆく準備が整ってきました。農の営みが本格的にはじまる合図ともいえるこの時季、自然とともに暮らす人々の手もまた、土にふれ、風にふれ、静かに動きはじめます。

田植えの前段階となる苗代(なわしろ)には、可憐な苗がきれいに並び、細くて頼りなげながら、真っ直ぐに空を仰いでいます。冷え込む夜を越え、やわらかな陽射しと水のぬくもりを受けながら、苗は少しずつたくましくなっていきます。まるで春のやさしさに包まれて、背を伸ばしているかのようです。

「苗」は、やがて私たちの食卓を豊かにしてくれる稲の命のはじまり。その小さな姿には、自然の恵みと人の手のぬくもりが重なり合い、今年の実りへの静かな希望が込められています。

この時季の空気には、冬を乗り越えた安堵と、春の力強い息吹が溶け合っています。風の中にはまだひんやりとした名残があるものの、太陽の光は確かにやわらかく、そして少しずつ力強さを増しています。苗が芽吹くというその出来事は、春が深まり、命がいよいよ育ちゆく段階へと進んでいることを、そっと教えてくれているのです。

霜が止み、苗が出る。
そんな静かな自然の巡りの中に、私たちもまた、新しい一歩を踏み出す準備をしているのかもしれません。

土にふれることがない日々のなかでも、目を凝らし、耳を澄ませてみれば、風の音や水のきらめきが、小さな変化をそっと語りかけてくれるはずです。
やわらかく始まる命のリズムに、心を預けてみませんか。

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