第八候 桃始笑(もも はじめて わらう)

—桃のつぼみがほころび、花が咲き始める頃—

春の光がやわらかさを増し、風も心なしかあたたかくなってきたころ、桃の枝先に、小さなつぼみがふくらみはじめます。
ふっくらと丸みを帯びたそのつぼみが、そっとほどけるように花を咲かせる――そんな時節を、古人は「桃始笑(ももはじめてわらう)」と呼びました。

昔の日本では、花が咲くことを「笑う」と表現していました。
「山笑う」という春の季語にも表れているように、「笑う」という言葉には、
季節のいのちが動き出すよろこびが込められています。
口をほころばせるように、つぼみがふんわりと開くさまは、たしかに「笑う」にふさわしい、やさしい動きです。

桃の花の特徴

桃の花は、桜よりも少し早く、そして少し濃い紅色で春を彩ります。
桜が枝から垂れるように房状に咲くのに対し、桃は枝に直接、ぎゅっと密集して咲きます。まるで枝全体が花で覆われるように、あふれんばかりに咲き誇るのが特徴です。

また、普段「モモ」と呼ばれるのは実を食べるための品種で、観賞用のものは「ハナモモ」と呼ばれます。
ハナモモは八重咲きや絞り咲きなど種類も豊富で華やかですが、実は小さく、食用にはなりません。

桃と人々の信仰

桃は弥生時代のころにはすでに日本に伝わっていたと考えられています。
古代中国では「桃は邪気を祓う聖なる木」と信じられてきました。
その思想は日本にも伝わり、『古事記』にはイザナギノミコトが黄泉の国から逃げ帰る際、追ってきた黄泉醜女(よもつしこめ)に桃の実を投げつけて退けたという伝承も残っています。

こうした背景から、日本でも桃は「魔除け・厄除け」の力を持つとされ、三月三日の桃の節句とも結びつきました。やわらかで華やかな姿の裏には、人々が古代から抱いてきた信仰や祈りが息づいているのです。


が笑う頃――それは、自然がゆっくりと目覚め、命がつながっていく季節の真ん中。
その一輪に込められた春のよろこび。

忙しさの中にも、ふと足をとめて、咲き始めた花々に目を向けてみませんか。
そのやわらかな笑みに、あなたの心も、そっとほころびますように。

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