「雨水(うすい)」の頃(例年2月19日頃〜3月4日頃)に該当する季語(歳時記に載る言葉)は、
まさに冬の終わりと春のはじまりが溶け合う「季節のはざま」を捉えた、繊細で揺らぐ言葉が多くなります。
以下に、俳句・短歌・散文にも使える「雨水のころ」の代表的な季語を、分類してご紹介します。
目次- table of contents-
雨水の頃の季語(早春・晩冬)
1. 季節の変わり目を表す季語
| 季語 | 読み | 備考 |
|---|---|---|
| 雨水 | うすい | 二十四節気の一つ。「雪が雨に変わる」時期。春の季語。 |
| 冬去る | ふゆさる | 冬が終わるという意味。晩冬。 |
| 春隣 | はるどなり | 春がすぐそこまで来ている気配。晩冬。 |
| 春めく | はるめく | 空気や光に春の気配が感じられること。早春。 |
| 解氷 | かいひょう | 凍っていた湖・川が解け始める。早春。 |
| 雪解(雪解水) | ゆきげ・ゆきげみず | 雪が解けて水となる様子。早春〜春。 |
2.天候・気配の季語
| 季語 | 読み | 備考 |
|---|---|---|
| 余寒 | よかん | 立春を過ぎても残る寒さ。早春。 |
| 早春 | そうしゅん | 暦のうえでは春だが、まだ寒い。春の初め。 |
| 春寒(冴返る) | はるさむ・さえかえる | 春になっても冷え込みが戻ること。 |
| 東風(春風) | こち・はるかぜ | 春の風。梅を運ぶ風として古来詠まれる。 |
| 微雨 | びう | 細かい静かな春の雨。春の気配が色濃い。 |
| 朧(朧月・朧夜) | おぼろ | 春特有の湿った空気とぼんやりした光景。 |
3. 植物・生物の芽吹きを示す季語
| 季語 | 読み | 備考 |
|---|---|---|
| 蕗の薹 | ふきのとう | 雪解けのあとに最初に顔を出す。早春の象徴。 |
| 芽吹き | めぶき | 木々や草が芽を出し始める様子。 |
| 萌ゆ | もゆ | 草木が芽を出すさま。古語的な趣あり。 |
| 梅 | うめ | 春告草(はるつげぐさ)とも呼ばれる。 |
| 柳の芽 | やなぎのめ | 柔らかく、春の兆しの象徴的な植物。 |
4. 生き物や暮らしの兆し
| 季語 | 読み | 備考 |
|---|---|---|
| 雀の巣作り | すずめのすづくり | 鳥が動き始めると春の兆し。 |
| 燕の初見 | つばめのはつみ | 燕が飛来し始める。早春の代表季語。 |
| 畦塗る | あぜぬる | 田の畦を整える農作業。水の動きが戻る季語。 |
・雨水の気配を詠むには
俳句や詩文、随筆などで雨水の頃の情緒を表すときは、以下のような表現が自然です
- 「春めく風」(まだ寒いが空気が緩む)
- 「朧の空に東風が吹く」(湿り気ある風とぼんやりした光)
- 「雪解水の音に目を覚ます」(水が動き始める描写)
- 「蕗の薹ひとつ、草の中より」(生命の兆しを一点で示す)
| テーマ | 例となる要素 |
|---|---|
| 音 | 雪解け水、雨音、風の音の変化 |
| 空気 | 湿り気、ぬるみ、光の曖昧さ |
| 動植物 | 蕗の薹、梅、芽吹き、鳥の声 |
| 人の営み | 畦塗り、種まき準備、立春過ぎの暮らし |
雨水の頃を詠んだ俳句(五・七・五)
冬の終わりから春のはじまりへの移行期にあたる、
湿り気を帯びた空気、雪の解ける音、土の匂い、かすかな光の変化などをとらえた俳句と短歌を、それぞれご紹介します。
・古典・近代的な作風
春めくや 音もなく解く 軒の雪 ― 正岡子規
→ 「春めく」が早春の到来を静かに告げます。まさに雨水の気配。
畦塗りて 田にまだ眠る 日のぬくみ ― 飯田蛇笏
→ 雨水の季語「畦塗り」。土に春の温もりが戻る描写。
水ぬるむ 声にはならぬ 音ひとつ ― 加藤楸邨
→ 雪解けの音や空気の緩みを「声にならぬ音」で表現。
◉ 現代的・感覚的な作風
雨水なり 名もなき雨の 道を打つ ― 現代作(無署名)
→ 雨水という節気が、静かに季節を変えていく様子。
くぐもれる ひかりのなかに 鶯初音 ― 現代作
→ 春の光がまだ不確かで、「朧」と「音」の組み合わせが雨水らしい。
🟩 雨水の頃を詠んだ短歌(五・七・五・七・七)
◉ 古風・抒情的な作風
ゆるびたる 畦をふむとき 水の音
遠くに春の ひかりゆれおり ― 佐佐木幸綱
春隣 つめたき風に 眼を細め
いまだ芽吹かぬ 土の匂いす ― 与謝野晶子風
◉ 現代的・日常と重ねた作風
解けのこる 雪のしずくに 触れながら
去年のことを ふとおもいだす ― 現代作
駅前の 鉢に蕗の薹 ひとつ咲き
はじまるようで まだ始まらず ― 現代作
雪解けの水音、芽吹く蕗の薹、ぬるんだ風。雨水の頃に浮かぶ季語は、どれも春の入り口を告げる小さな予兆です。
やわらかな言葉に触れることで、私たちの感覚もまた、春に向かってほどけてゆくのかもしれません。
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