—山里でウグイスが鳴き始める頃—
まだ肌寒さの残る山里に、ひときわ澄んだ音色が響きます。
それは、春の訪れを告げる鳥、鶯(うぐいす)の初鳴き。七十二候では、この頃を「黄鶯睍睆(うぐいすなく)」と呼び、いよいよ本格的な春の兆しが感じられ始める時節です。
鶯は「春告鳥(はるつげどり)」という別名をもち、古くから日本人に親しまれてきた存在です。
その鳴き声は、ただの鳥の声ではありません。
朝の空気に溶けこむように、ひと声、またひと声。
やがて、「ホーホケキョ」という美しい節回しが聞こえるようになると、まるで季節そのものが目を覚ましたかのように、春が確かにそこにあると感じさせてくれます。
最初は鳴き方もたどたどしく、どこか頼りない声を響かせていますが、日を追うごとにその音色は磨かれて、やわらかく、そして凛とした春の調べに変わっていきます。まるで、春が少しずつ深まっていくように。
また、鶯といえば、やはり「梅に鶯(うめにうぐいす)」という言葉が浮かびます。
この組み合わせは、実際によく見られる風景でもあり、また、見た目にも調和がとれた美しい情景として、古くから和歌や絵画の題材にもされてきました。
白や紅の梅の花に、そっととまる小さな鶯。その羽根の緑と花の色との対比が、なんとも言えず絵になります。まさに、調和の美そのものです。
鶯の声に耳を澄ます時間は、日常のなかにふと訪れる静かな贈りもののよう。
忙しない日々のなかでも、ふとした瞬間にその声に気づくと、自然と足を止め、耳を澄まし、心がふんわりとほどけてゆくのを感じることでしょう。春は、光や風だけではなく、「音」にも宿っています。
その音を見つけられる心でいたい。そんなことを思わせてくれる、しっとりとした季節の節目です。
コメント